皮革文化の成り立ち 1-なめしの発祥

皮革と言う言葉には大分して二つの意味があります。

「皮」とは、動物の原皮そのものを指します。
体毛が生えており、剥いだ直後は腐りやすく硬化も早い為、非常にデリケートな状態と言えます。
「革」とは、人間が身に着ける衣服や道具の材料として生まれ変わった皮を指します。
身にまとう為に古代人が編み出した技、それが「なめし」と呼ばれる工法です。

なめしを経て、「皮」は「革」になります。
なめしは、太古の昔から進化を続けている伝統技術なのです。

太古の人々は、動物から剥いだ獣皮が硬化する前に、噛んだりなめたり、叩いたり、揉んだりを繰り返して筋繊維をほぐし、柔らかくしました。
何だか恐ろしい情景が浮かんできますが、なめし技術の原初、およそ200万年前はたったそれだけの工程で動物の原皮を着衣に転換していたのです。

人間はいつの時代も動物と共に在りました。
時には狩猟し、または飼育し、その肉や卵を食べ、その皮を身に纏ってきたのです。
古代壁画に、なめしを行う原始人の姿が描かれていると言われ、旧石器時代の遺跡から皮を加工する為の道具が発掘されています。

宗教上、特定の動物を神聖なものと崇める場合や、乱獲に対して動物愛護を訴える現代的な側面から思考を切り離し、根本的な視点に立って、私たち人間と動物達とのこのような共存に思いを巡らせると、
これまでもこれからも断つことのできない、極めて重要で神秘的な因果関係に改めて気づかされます。

世のあらゆる技術と同様、皮の加工技術も進化を重ねていきます。
炉の近くに置いた皮から血のにおいが消え、腐りにくくなることを知った原始人は、煙で原皮を燻すようになりました。これは最古のなめし技術と言われる燻製なめしです。
そして原始から古代に時代が移り、動植物の油を塗りこむことで皮が柔らかくなることを知った古代人は、なめしに動物性油脂やナタネ油を用いるようになりました。
さらにある時、倒木に寄り添って死んだ動物の皮が腐りにくいことに気づいた古代人は、草木と一緒に漬け込むことで皮がさらに柔らかく、長持ちすることに気づきます。
タンニンなめしの基礎とも言える植物エキスを用いたなめし技術の誕生です。

今も有名なタンニンなめしの前触れはこのように古くからありましたが、なめしに必要な渋(タンニン)だけを植物から抽出する技術は、古代人にはありませんでした。
タンニンなめしを正確な技術として確立したのは、イタリアのトスカーナ地方が発祥と言われています。
トスカーナに流れるアルノ川の潤沢な水と、タンニンを多く含む栗林に恵まれたこの地方には、
タンニンなめしを行うのに最適な環境が自然と整っており、今も皮革製品の名産地として知られています。
タンニンを抽出する技術は革新を続け、着心地が良く、快適な革製品を次々と産出していきます。

19世紀後半、金属性の薬品(塩基性硫酸クロム)を使用した工法、クロムなめしがドイツで開発されます。
焼却時に発生する有害物質(6価クロム)の影響で、地球環境保護の観点から現代では問題視されていますが、当時は生産効率を飛躍的に向上し、耐久性、伸縮性、撥水性に長けたこの技術が世界中でもてはやされました。
今では、クロムなめしとタンニンなめしを混合させたコンビネーションなめしが主流となっておりますが、
環境問題から、最もオーガニックなスタイルであるタンニンなめしが今また見直され、脚光を浴びています。

ほどなくして、服飾文化は多様化を極め、革はファッションに欠かせない素材となります。
染料や顔料で着色され、タンナー(皮革製造業者)の発祥であるイタリアやドイツを始め、フランスなど世界各国で色とりどりのエレガントなレザーアイテムが登場しました。

次回のブログでは、ファッションとして興った皮革文化を追っていきます。